なんだかんだいって



「おはよう」

「あら、おはよう」





もうすぐお昼になる時間に、まだまだ寝たりなさそうな顔して起きてきた
両親共にいるはずのリビングに一人足りないことに気付く。



「かあちゃん、あいつは?」



のあいつという言葉には「もう…」とため息がでる。



「"あいつ"じゃないでしょ?」

「…とうちゃん、は?」



口を尖らして不服そうではあるが、ちゃんと言い直したは満足そうに微笑む。



「ユウなら試合に行ったよ」

「しあい… でるの?」

「おじいちゃんの道場の生徒さん達が試合に出場するから、コーチとしてね」

「ふーん…」



興味がなさそうな相づちとは裏腹に、せっかくの休みの日に父親がいないことに、寂しそうな顔をしている。



「パパが留守で寂しい?」

「ぜんぜん! いなくてせいせいするもん!」


図星をさされたせいで、の顔は真っ赤に染まっている。
それをみたが「本当に?」とからかえば、一生懸命寂しくないと主張する。
その必死な様子が可笑しくて、はつい笑ってしまう。



「ほんとうに、ほんとだからね!」

「はーいはい、わかりましたよ。

今日はユウがいないから少し早めにお昼にしよっか」

「うん! てぇあらってくる」



がお昼にしようか言うえば、お腹が空いていたのか表情をコロッと変えて、嬉しそうに洗面所へ駆けていいった。
…かと思えば、すぐにタタタッと足音をならしながら戻ってきて、自分のイスによじ登る様にして席に着く。



「ちゃんとキレイに洗ってきた?」

「うん、あらったよ」

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます!」



目の前のお皿に盛り付けられたオムライスにはケチャップでの名前が描かれている。
はそれをスプーンですくっては、口を大きくあけて頬張る。



「ねぇ、かあちゃん」

「なぁに?」

「とうちゃんって、けんどーつよいの?」

「んー…、ユウが学生の頃はよく一番とってたから、それなりに強いと思うよ」

「じゃあオレ、とうちゃんより強くなってとうちゃんをやっつけてやる!」

「えぇ!?」



の『やっつけてやる』の言葉に、の中でユウがかなり悪者ポジションに位置付けされているんじゃ…とは心配になる。



「や、やっつけちゃうの…?」

「うん!」



の中のユウのポジションを聞いてみようにも、もし、ごくごく真面目に悪の親玉の様だと返された時、リアクションに困ってしまいそうで聞くに聞けない。



(ま、いっか… やっつけられるのはユウだし)



それに、自分の父親を超えてやるって目標を持つことはいいことだし…と、は我が子の野望に無理やり納得する。












「ただいま」



日が暮れ空がオレンジに染まりだした頃、試合のコーチの役目を終え帰ってきた。


持っていた剣道の防具一式をおろし、玄関で靴を脱ぎながらユウはそういえば…と思い出す。
と一緒になる前は、ユウは家に帰っても"ただいま"と言う事なんかは無かった。
けれども前に"ただいま"を言うか言わないかで、と壮大なケンカをしてからは、帰ってきたら"ただいま"を言うようにはしている。



(あん時のは本当に怖かった…)



あんなケンカはもうゴメンだと、ユウは心の奥底から思う。

それに………、



「おかえりなさい、ユウ。 試合どうだった?」



自分がただいまと言えば返ってくる、おかえりなさいの言葉とのお出迎えも悪くない…と満更でもなさそうだ。


荷物をに預けリビングへと足を進めれば、日が差し込んでいるおかげで絶好の昼寝スポットとなったその場所に、大の字になってすやすやと眠るの姿があった。
風邪をひかないようにとが掛けてやったと思われるタオルケットが、の足元でグシャグシャになっている。

その事に気が付いたユウは、タオルケットを拾い上げに被せ、そしてそのままじーっと気持ちよさそうに眠るの寝顔を見つめる。



「可愛いげがあるのは寝てる間だけだな…」



は起きている間はいつも、なにかとユウに突っかかっていく。
困る訳ではないが若干複雑な気持ちで、にはベッタリな癖に…と心の中で悪態をつく。



「一生懸命になって刃向かう姿だって可愛いじゃない」

「っ、…聞いてたのかよ」



誰もいないと思って呟いた言葉を、に聞かれてユウは顔をしかめる。
ユウの隣に同じようにしゃがんで我が子の寝顔を眺める。



「だってユウがをじーっと見てたから、どうしたのかなぁ…って」

「…今聞いた事は忘れろ」

がなついてくれなくて、寂しい…?」

「……全然寂しくねぇよ」



そっぽを向いて寂しくないと断言し、不機嫌そうにさっさと部屋を出ていってしまった。



「親子そろって、素直じゃないんだから…」



寂しい?と聞いて全然と答えた時の顔が、もユウもそっくりで、それが可笑しくて笑いがこらえられなくなったのクスクスと笑う声がリビングに響いた。














END






なんだかんだいってお互い素直じゃないだけで、大好きなんです。






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