『クリームパーンチ!』

「ぱーち!」

『天丼丸子ちゃん、大丈夫かい?』

『えぇ、ありがとう! クリームパン君』

『悪いやつはボクのパンチでやっつけてあげるからね』

「おおー」



テレビの目の前に座って、朝の子供向けアニメを楽しんでいる
その後ろのソファでユウが今朝の新聞を読んでいた。

しかし、アニメのあまりにもバカらしい内容と、いちいちクリームパン君とやらに反応するの声が、勝手に耳に入ってくる。
そのせいで新聞に集中できずイラッとしたユウは、ギロリと目の前の小さな背中を睨み付ける。



(…うるせぇし、くだらねぇ)



しかしはそんな視線に気付くわけもなく、アニメに夢中になっている。

一度五月蝿いと感じると、アニメとの声への苛立ちが徐々に大きくなる。
そうなってしまえば、ユウの意識は完全にアニメとに向いてしまい、もう新聞を読むどころではない。

そこでふとの横にリモコンがあるのを発見したユウ。
この状況を打破するために、テレビの音量を下げてしまおうと、に気付かれぬようコッソリとリモコンをとる……



「ユウー」

「っ!? な、なんだ!」

「このお皿とってー」



自分が大人げない事をしていると自覚があるのか、隣のキッチンからのの自分を呼ぶ声にビックリするユウ。
バクバクと激しく脈打つ心臓を抑えるように胸に手を当てる。
とりあえず手にしたリモコンをその辺に放って、のもとへ行く。



「この上のお皿をとってくれない?」

「…ホラよ」

「ありがと、ユウ」

「つーか、椅子使えよ」

「ダメ? ユウのこと頼りにしてるんだけどなぁ…」



ユウを見つめながら頼りにしていると言えば「…ケッ」と悪態をつき、さっさとリビングのソファに座って新聞を広げてしまった。

けれどもその悪態が照れ隠しだと知っているは、にやにやと笑いながら再び作業に取りかかる。






『きゃぁぁああーー!!』

『おや、この叫び声は!』

『たすけて! クリームパンくーん!』

「いけっ、くりーむぱん!」

『いますぐ飛んでぃ………ぅ……ね!……』

「…うぅ?」



これからが一番盛り上がるシーンだと言うのに、クリームパンの声が急に小さくなって聞こえなくなってしまった。

何が起こったのかわからないは、テレビに近づきペチペチと画面を叩いてみる。
…が当然なにも変わらない。

そういえば音が小さい時は、四角い箱の棒が2つ重なったボタンを押せばいいんだと思い出したは、その四角い箱を求めてさっきまで座っていたところへ戻る。



「……れ?」



けれども、確かに番組が始まる前に自分の隣にあったハズなのに、そこには何もない。

こうしている内にも画面の中では、遠慮なしにクリームパンが敵を倒している。
せっかくのいい場面が、音声なしのせいで楽しさ半減だ。

は急いで四角い箱…もとい、リモコンを探す。
キョロキョロと辺りを見回せば、探し物はソファに座るユウの下敷きになっていた。

それをみたは、クリームパンが喋らなくなってしまったのはヤツのせいか、とユウをジー…っと睨む。










の、頼りにしている発言に照れ臭くなったユウは、逃げるようにしてリビングに戻り、再び新聞を広げていた。
しばらく新聞を読んでいると、どこからともなく殺気が飛んでくる。

その殺気をたどれば、そこにはが変な顔して自分を見ていた。



「なんだよ」

「…」



ユウが話しかけても、何も反応しない。
が変な顔をしているのではなく、なりの精一杯の怖い顔をして睨んでいるということに気づくはずもなく、の意味のわからない視線にイラついたユウは、なんだコイツは…と睨み返す。

するとがノソッとたちあがり、掛け声とともにユウに向かって走りだす。



「てやぁー!」

「…ぁあ?」



そのままの勢いで、ソファに座るユウの足にしがみつき、唸り声をあげてしがみついている足を揺らす。

が何をしたいのか全くわからない上に足にまとわりつかれては非常に不愉快だ。
コイツをどうしてやろうかとしばらく考えた結果、しがみつかれている方の足でを後ろに押し出す。

その容赦ないユウの押し出しによって、は後ろ向きに転ぶ。

「うゃっ」



少し体が浮いたかと思えば、なぜか天井が見える。
こかされたは、何が起こったのかを必死に理解しようと、仰向けに転がったまま動かない。
鬱陶しさのあまりついつい邪険に扱ってしまったが、なかなか動かないにユウはやりすぎたかと焦る。

しかしそんなユウの焦りをよそに、は何事もなかったかのように立ち上がり、果敢にもまたユウに立ち向かって行く。

そして無言でを押し退ける。
また転かされるが、めげずに父親に向かって行く息子。


このやり取りが数回続き、まだ止めようとしないに、ユウがとうとうキレた。



「なんなんだ、お前は! ウゼェから「ユウ、、ご飯できたよー」…あ」



の不可解な行動のせいで、怒りのボルテージがMAXになったユウが、いつもより強い力でを押し退ける。
そこにタイミングよく二人を呼びに来たには、ユウがを蹴り倒したようにしかみえなかった。

が転がされるのをみたは悲鳴をあげ、急いで転がるに駆け寄り抱き上げる。



「なにやってるのよ、ユウっ!!」

「いや、これはがっ…」

「言い訳無用です!」



さっきのの睨みとは違い、かなりこわい顔でこちらを睨んでくるに、ユウはあわてて弁解しようとする。
しかしは我が子を蹴り倒す夫の言葉なんかに聞く耳をもたない。



を蹴り倒すなんて…!」

「蹴ってねぇっ!」

「嘘つかないで! もうっ、ユウはご飯抜きです!」

「はぁっ!?」

「さあて、こんな酷いパパは放っておいてご飯にしましょうねぇー、

「うんっ」

「オイ、待てよっ!」



ユウが必死にをなだめて、家族三人で食事をとることができたのは、食事がすっかり冷めきってからだった。









END






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