I Cannot Thank You Enough. 04



裸に白衣といった格好のを横抱きにして歩いているせいか、周りから好奇心に満ちた視線が送られてくる。
今はそれを気にする暇もないので、そんな視線を気にする事なくオレは歩き続ける。


信じられない出来事の発端となったであろう、悪の根源となる人物がいるハズの部屋のドアを開けると、珍しくその人物が起きていて、コーヒーを飲んでいた。



「室長!」

「どうしたんだい? そんなに慌て……………それは…何プレイだい?」

「んな訳ないでしょ!」

「いいんだよ? ボクは君の上司だけど、君の性癖までどうこう言うつもりは―――」

「だぁああ!! 違うって言ってんでしょ! ロクな事考えないな、アンタはっ。」



さっきからとんでもない事ばかり言ってのける室長に、オレは思わずは吠える。
その突然の大声にが驚いてビクッと体を震わせ、オレの服を強く引っ張る。

服が引っ張られた感覚にハッと我に返り、おずおずとオレを見上げると目があう。
その目をみて、急に大声をだしてしまった事に、ごめんな。と謝りを近くのソファに下ろす。



「冗談はさておき、その娘は一体誰だい?」



ひとしきりオレをからかって満足したのか、ようやくコムイ室長が真面目な顔をする。



「……です。」

…って、リーバー君が連れて帰ってきた、あの猫だよね…?」

「その猫ッスよ。

が室長のプライベート実験室に迷いこんじまったんスよ…。
そこでちょっと色々ありまして………に変な色の液体がかかったと思ったら、こんな事に…。」

「んー…、なるほど。」



オレはあれ程驚いたのに、特に驚く様子もなく普通に納得するコムイ室長。



「…室長、何でそんなに落ち着いてるんスか。」

「いやぁー…、そう言えばそこで、ゴーレムを人に変身させる薬とか作ってたなぁーって思い出してね。

だからが人になったのも、なきにしもあらずかなぁって…。」

「………そんなもの作ってないで、仕事して下さいよ…。」



らしいっちゃあ、らしいその答えにオレは脱力する。
一応オレ達の言葉がわかるも、不安そうに眉をたらしている。

そんなオレとをよそに、室長はコーヒーを片手に興味深そうにを色々な角度から眺めている。

すると、どうすればいいのか分からなくなったのか、が助けを求める目でオレを見上げてくるので、室長の視線から遮るようにして立つ。



「そんなにジロジロ見ないでやってくれませんか?

それと室長、を元の体に戻す方法はあるんですか…?」

「あぁ、ゴメンね。

みたところ、これと言っておかしな所は無いから、普通にしている分には害はないと思うよ。
言葉とか、歩く練習は手のあいてる人が一緒に練習する事にしようか。」

「そうっスね、オレ一人じゃ限度があるんでよろしくお願いします。

……………で、元の体に戻す方法は…?」

「えへ?」

「…」

「…」

「………わからないんスね。」

「だって、成功するとは思わなかったんだもん。」



三十路前の男が『もん。』とか言っても可愛くないっスよ…。

こんな人でも教団のトップである室長』で、この目の前の人物に出来ない事がオレに出来る訳ない。
には悪いが、暫くはこの姿のまま居てもらうしかないな…。


そうなると問題は、の住居スペース。
猫であろうが人であろうが、には変わりないのでオレは一緒の部屋で全然問題ない。
………というか、普通に可愛い子だから少しラッキーだ。

って、なに考えてるんだオレは…。
いくら女の子の姿をしていると言えども、この子はだぞ。



「あー…、の部屋はどうします?」

「そうだねぇ、この姿で一緒の部屋って訳にも………ん?」



何かを言いかけたが、途中で止めるので不思議に思い、室長の視線を辿れば、室長の白衣を掴み首を大きく横に振るの姿が。
再び視線をコムイ室長に戻せば、今度は室長が助けを求める目でコッチをみていた。

そんな目で見られてもなぁ…なんて思いながらも、と目線を合わせる様にしゃがみこむ。



「どうしたんだ、。」

「やぁー…!」

「やーって言われてもなぁ…」



の気持ちが分からず、色々と頭を悩ます。

するとコムイ室長が何か思い付いたのか、あっ…と声を漏らした。



「もしかしてリーバー君と離れるのが嫌なんじゃないかな?」

「え…、そうなのか? 。」



確かに何かを否定している様にもみえなくもない。
そう問いかければは何度も頷く。

勢いよく何度も頷くを見てオレは、なんだか無性に嬉しくなる。



「それじゃあ部屋はいままで通り、リーバー班長の所に決まりだね。」



室長がそう言うやいなや、がオレの首に腕をまわして抱き付いてくる。
しゃがんでいたオレは、その反動で尻餅をつきそうになったが、なんとか堪える。

オレに抱きつくの背中を、よしよしと撫でながら、何か良いことが有れば擦り寄って来るのは、ネコの姿の時から変わらないなぁ…なんて事を考えていた。













END



(やった、リーバーさんと同じ部屋!)

(や、だから、柔らかいのが当たって……)