I Cannot Thank You Enough. 03
(どーなってんだ、一体!)
いましがた自分の目の前で起こった出来事に驚いているオレは、突如現れた人物をわなわなと指をふるわせながら指差す。
よーく見れば、目の前の人物はおそらく20歳前後の女性で、しかも素っ裸。
オレはその事に気づくと慌てて目を閉じる。
とりあえず落ち着こうと、目を閉じたまま深呼吸を数回繰り返すが、バクバクと激しい心臓の鼓動が一向におさまる気配がない。
自分の胸に手を当てれば、心臓のバクバクという震動が手に伝わってくる。
その振動を感じながら、たった今目の前で起こった出来事を頭の中で整理してみる。
確かが棚に飛び乗って、何が入っているか分からないような室長の実験器具の間を歩くもんだから、危ないから抱き上げようとしたんだ。
そしたらが後ろに下がって逃げたから、オレも一歩前に出て…。
そんな事を繰り返していたら、が周りにあった実験器具を巻き込みながら棚から落ちて。
ホラ、言わんこっちゃない。とか思っていたら、この子が目の前にいて、でもはどこにもいなくて…。
……………。
え、って事はもしかして、
『この子 = 』!?
いやいや、それはないだろ自分。
でも、室長のプライベートな実験室だから、ありえなくもないんだよなぁ…。
………ハァ、室長のばかやろー。
なんて事を考えていたら、あんなに激しかった心臓の鼓動もいつもどおりに。
何とか落ち着くことが出来たから、そーっと目を開けてみる。
すると(仮)は、不思議そうに自分の手足を動かして、いろんな角度から眺めている。
(だぁーー!! あ、足をそんなに開くなよ、見えるだろ!)
独り身で、しかも男ばかりの職場で働いているオレにとっては、年頃の女性が素っ裸でいるというのは、目の保養にはなるけれど、それ以上に色々とよくない問題があるから、自分が着ていた白衣を(仮)の肩にかけてやる。
すると、一瞬きょとんとした表情だったけれど、オレと目が合えば至極嬉しそうな顔をする。
素肌に白衣というのもなんだか危険な香りがするけど、何も着てないよりマシか。とひとりで納得する。
(そう言えば…。)
いつまでも(仮)と呼ぶわけにもいかないので、納得ついでに問いかけてみる。
「…?」
「あ、うー…。」
「…?」
「なぁー、あー」
返ってきた答えは到底言葉とは言えないような声で、でもオレの言っている意味は分かっているのか、首を縦に振っている。
「あー…。 もしかして、喋れないのか?」
「うー。」
さっきと同じように首を縦に振る。
それを見てどうしたものかと考えあぐねていると、が自分の喉のあたりを押さえながら、声を出す。
その様子をじっと見ていると、だんだん手に力がこもってきたのか指が白くなって、そのうえ声も悲痛なものとなる。
「喋れないなら無理に喋らなくていいから、な?」
「う゛ー!!」
力を込めすぎて白くなった手を掴んでやめさせれば、泣きそうな顔でこっちを見る。
その顔を見てオレはどうにかしなくてはと思い、悪の根源である室長の元へ向かう事にした。
ずっと座りっぱなしだったに、立てるかどうか聞けば、ぎこちない動作で手足を動かして立とうとする。
けれどもやはり猫と人間とでは感覚が違うのか、やがて悲しそうにこちらを見て大きく首を横に振った。
これは教えなきゃいけない事が、いっぱいありそうだなぁ…。なんて事を心の中で呟いて、を横抱きにして少し早足で色々あったこの部屋を出ていく。
END
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か、会話が少ない…。
そのうえ少し短い…。