Ver.Leever
黒の教団本部 科学班班長 リーバー・ウェンハムはものすごく悩んでいた。
2年ほど前…。
黒の教団本部の科学班フロアは、とある人物の(はた迷惑な)発明品の暴走によって、壊滅状態に陥った。
発明品の暴走を食い止めるため、傷を負った者は数知れず。
リーバーもそのうちの一人で、面倒事ばかり起こす上司のせいで肉体的にも精神的にも疲れ果てた重い体を引きずるように、傷を癒してもらうため医療班フロアへと向かった。
このとき手当を担当してくれて、手当の最中上司への愚痴に付き合ってくれた看護婦さんが、帰り際に「頑張ってください。」と送り出してくれた時の笑顔にリーバーはうっかり惚れてしまったのだった。
それからというもの、何かあるごとに医療室フロアを訪れ、
その甲斐あって、しばらくすればお互い名前で呼び合うまでとなった。
しかし、今一つ勇気が出せず、に自分の気持ちを伝えることなく、そのままズルズルと時間がたち今に至るのである。
しかし、その2年もの時間の中で、の浮いた話を聞いたことがなかったので、最近ではこんな関係も有りか。と、どこか余裕を持った考えをしていたリーバー。
だが、バレンタインデーが近づいてきた今、とある筋から、が誰かに本命チョコを渡す。と情報が入った。
これまで全く浮ついた話のなかったの、初めてのそういった話に、油断していたリーバーは当然の如くものすごく焦る。
それからというもの、リーバーは今まで何もしてこなかった自分に後悔し、何かを考え込むことが多くなった。
「(はぁ…。) どうするかなぁ……。」
「お? リーバー、まだ悩んでるんか?」
ここ、すっげー皺になってるさー。と、自分の眉間を指差しながらラビが、書類整理をしているリーバーのデスクへとやってきて、近くにあった椅子を引き寄せそこに座る。
「悩んでちゃ、悪いか…?」
「そんな所で悩んでねェで、本人に直接聞けばいいさぁ。」
「それができたら苦労ねェよ…。」
「…それもそっか。」
淡々と書類整理しながら、重い溜息をつくリーバーを見てラビは、そう言えば…。と話を切り出す。
「ちまたじゃ、逆チョコなんてのが流行ってるらしいぞー。」
「逆チョコ?」
「何でも、男が好きな子にチョコ渡すらしいさ。」
「へぇ…、そんなのもあるのか。」
「やっぱ男はグイグイっと攻めないとな。」
「待ってるだけじゃダメさぁー。」と言葉を残しひらひらと手を振って、ラビはそのまま立ち去っていく。
「待ってるだけ、か………。」
残されたリーバーは一言つぶやき、また考え込む。
そしてバレンタイン当日。
(リナリーに聞いての喜びそうなものを一応用意して見たけど…。)
(…………………、渡すに渡せん…。)
病室の前でウロウロとして、なかなか中に入ろうとしない男が一人いた。
(情けないな、オレ……。)
深い溜息をついて、ガクっとうなだれるリーバー。
すると病室の扉が開いた。
「あら、あなたは…。」
「ふ、婦長さんっ…!」
「そんな所で何をしているのです? 用があるなら早く入ってください。」
「え、あぁ、いや、オレは別に。」
「つべこべ言っていないで。 さぁ、早く。」
中から出てきた婦長さんに背を押されて、そのまま病室に押し込まれる。
病室に入った後、ちょうど手が空いていたにリーバーを預け、婦長さんはそのまま病室の外へ出て行ってしまった。
「今日はどうされたんですか?」
「あー…。 いや、どっか悪いってわけじゃないんだ。」
「そう、なんですか…?
でも、お元気そうでよかったです。
ここ最近お会いする事がなかったので、心配していたんですよ?」
「あぁ、……最近ちょっと忙しかったから…。 心配してくれてありがとな?」
まさか、が誰かに本命チョコをあげると聞いて、ショックを受けていた、なんて事を言えるはずもなく、の問いに曖昧に答える。
そんなリーバーの様子に気づかずに、はそのまま話を続ける。
「そうだったんですか…。
あんまり無理しないでくださいね?
ホラ、こんなに濃いクマができてますよ…?」
そう言って、そっとクマがあるところに触れる。
眉をハの字にして至極心配そうに自分を見つめてくる彼女を見て、リーバーはやっぱり自分はこの子の事が好きだなぁと、改めて実感する。
するとさっきまで緊張していたことが、不思議に思えるくらい気持ちが落ち着いてくる。
そこでようやく、今日ここに来た目的を果たそうと決意する。
「なぁ、。 逆チョコって知ってるか?」
「男の人が好きな人に……って言うあれですか?」
「あぁ。 知ってるなら話は早いな。
あのさ、オレ…。
2年前初めてに手当してもらった時から、ずっとお前の事が好きなんだ。」
「…え?」
「だからコレ、受け取ってくれるか…?」
目の前に差し出されたモノと、今まで見たことがないくらい真面目な顔をしたリーバーを交互に見る。
少しして、ようやくその差し出されたモノが何であるかを理解した様で、はあたふたとした様子で突然立ち上がる。
「あのっ、ごめんなさい!! 少し待っててもらえますか!?」
そういって、リーバーからのプレゼントを受け取ることなく、そのままどこかへ走り去ってしまう。
の後姿を見て、差し出した姿のままボー然とする。
しばらくして我にかえったリーバーは、走り去っていく前のの言葉を思い出し、その言葉の意味する事を考え肩を落とす。
「(………………ごめんなさいって…。) やっぱそう言う事だよな…。」
まだそうと決まった訳でもないのにフラれたと思い込んでいるリーバーは、今すぐこの場所から立ち去ってしまいたかったが、にここで待っているように言われた以上、それも出来ない。
本命チョコの男でも連れてくるのだろうか…。
そんなことされては、自分は一生立ち直れない。
などと、立ち去って行ったの行方を考え始めて十分もしない内に、その本人が息を切らして戻ってきた。
「…、どこ行ってたんだ? そんなに息を切らして…。」
「ちょっと、そこまで…。
それより、リーバーさん!
バレンタインって知ってますか…?」
「そりゃ、もちろん…。」
「それじゃぁ、コレ………、受け取ってもらえませんか…?
……私も、始めてお会いした時からずっと好き、です。」
そう言って走ったからか、それとも照れているからなのか、顔を赤くしてチョコを差し出す。
「……………マジ…?」
「…マジです。」
「よっしゃ!!」
2年越しの恋心がようやく実ったことが嬉しくて、リーバーはチョコを持つの腕を掴んで、そのまま自分の方へと引き寄せ腕の中へ閉じ込める。
「なんだ…、もっと早くに好きだっていってりゃよかった。」
「私達、ずいぶんと前から両想いだったんですね。」
「ハハッ。 でもオレ、今すっげー幸せだ。」
「私もです。」
二人は笑いあいながら抱きしめあったまま会話を交わす。
時間がかかったものの、ようやく恋人同士になれた二人のほのぼのとした空気に、周りにいる人たちはみな思わず笑顔になる。
…一人を除いて。
「………………ゴホン。
ところであなたたち、ここがどこだか分かっていますか?」
「えっ。」 「あ゛、…。」
END
(ホントにリーバーさん、受け取ってくれるのかなぁ…? ラビ君。)
(絶対大丈夫さー。 それよか、逆チョコって知ってるか?)
(逆チョコ…?)
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